『Snow-Flake』
希望の芽はそろそろ蕾をつけるのだろうか?最近そう感じるようになった。
周りからは決して祝福されるはずのないこの想いだけど、それを捨てずにいられるのは、他ならぬ光輝兄のおかげなんだろうと思う。
彼が俺の気持ちをそっくりそのまま受け止めてくれるから、俺は彼を好きでいられるんだろうと思う。
「瞬、何黄昏てるんだ?」
光輝兄はやっぱり鋭い。俺の様子が変だと、すぐこうやって心配する。過保護じゃないの?とは思うけど、それは俺のことをちゃんと見てくれていることの証拠でもあり・・・ちょっとだけ複雑だ。
「んー・・・」
ちょっと答えに迷う俺。本当は深刻な問題ではないんだけど、下手にごまかして兄を更に心配させるわけにもいかないだろう。
「んー・・・なんか幸せだと思って・・・」
だから俺の気持ちを素直に伝えた。俺たちは兄弟で、しかも男同士で、付き合っているとはいってもえっちなことをするわけでもなく(兄のほうはやる気満々なようだけど、俺のほうが覚悟できていない)、仲のいい兄弟がただじゃれついているというのが実情だ。
それでも、彼の側にいると満たされて、光輝兄を好きになってよかったと思う自分がいて・・・彼を好きになって絶望しか感じなかった時もあったことを思うと、やっぱり今は幸せなんだと思う。
でも、光輝兄はどうなんだろうか?少しは俺といて満たされていると思ってくれているのだろうか?
「光輝兄は・・・幸せ?」
聞きたくてもずっと聞けなかった質問。その答えによっては俺は二度と立ち上がることができなくなるだろうことを自覚している。
「うーん・・・」
普段は俺の質問にしっかりと答えてくれる光輝兄だけど、なぜか彼は答えるのを迷っていたようだ。それはひょっとして、俺と付き合うのが辛いということなのだろうか?心の中に吹雪が来るのを感じる。
ちょっと出てきたと思った芽は、枯れてしまうのだろうか。
「幸せ・・・か。考えたこともなかったな・・・」
ぽつりと出てきたその答えは俺を凍てつかせるには十分すぎるものだったけど、その割に光輝兄の瞳は優しげで、俺は困惑を隠さない。
「・・・たぶん瞬の考えていることとは違うと思うよ。お前が側にいるという生活が当たり前すぎて、お前に聞かれるまで幸せだって気付かなかった・・・そう言ったほうがいいかな?」
そういう彼に嘘偽りは全く感じられなくて・・・。
「うん、ありがと、光輝兄」
嬉しさのあまりそれ以外何も言えない俺。だから、感謝の印・・・かどうかは知らないけど、思いっきり光輝兄に抱きついてみる。いつもであればここでセクハラ行為を働いてくる兄だけど、今日ばかりは何故だかおとなしく抱きつかれたままだった。
(ひょっとして・・・照れてる?)
彼の顔を見ると、どうも視線が泳いでいて、しかも、ほんのりと頬が赤くて。そんな表情の光輝兄を見たのは初めてかもしれない。俺は抱きつく力を強めてみる。
だけど、この辺でやめておけばよかったのだ。照れてる光輝兄をいじろうとしたおかげで・・・。
「瞬?あまりお兄様を焦らさないほうがいいぞ?」
そんな光輝兄は嫌がるどころか・・・妙にやる気満々で、俺の抱きつく腕を外し兄は覆いかぶさってくる。
「俺だって健全な青少年なんだから、お前に迫られて耐え切る自信がないんだ」
苦笑いしながら優しく俺の髪を梳く。物騒な言葉を放っている割には光輝兄のまなざしは穏やかで、それが彼なりの愛情であることを改めて実感する。
今の自分の気持ちがちゃんと開花するのかどうかは知らないけれど、それなりに希望を持てるほどには前には進んでいるんじゃないか・・・漠然とだけどそう思う俺だった。
END
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