HAPPPY MOON



「・・・なんだ、それは・・・」

一年を終え、また始まりを迎えるこの日、誰しも浮かれるものである。柚月もその中の一人であったはずなのだが、目の前の恋人を見て絶句した。



(これは何かの悪夢か?)



神様は男同士に祝福は与えてくれないのか?『神様なんか恐くない、恐いのは怒った岬だ』というようなことを平気で言ってのける彼でさえも、心の中で十字を切りそうになった。

「何だって・・・見れば分かるでしょう、先輩」

確かに、それは見れば分かる。
一言で言えば、「裸エプロン」ってやつだ。ただ違う点を挙げるなら、全裸ではなく、下にジーンズをはいていることなのだが、それは些細な違いでしかない。
いや、全裸か否かはモザイクが関係してくるため大きく違うような気もするが、それに突っ込みを入れる余裕は柚月にはなかった。



(だけど・・・何故・・・?)



岬にそんな趣向はあっただろうか?柚月は首をかしげる。柚月自身は時々そういうマニアックそうな趣味が出てくるのだが、岬は普通の高校生。
柚月の知る限りでは、進んでそんなことをする少年ではなかった。そんなことをしなくても充分岬は魅力的なのに・・・柚月の疑問は大きくなるばかり。

(何で俺のストライクゾーンなんだ?)

とはいえ、それがまたおいしいシチュエーションであることも否定できなかった。
裸エプロンには無駄と思えるジーンズ。岬のすらりとした生足が拝めない。
とはいえ・・・これが柚月の理性をぐらっとさせる。見えないからこそ想像してしまう。ある意味日本人の心だ。
しかもエプロンはフリルつきではない。シンプルなチェックの男物で、世の男性が想い描くようなものではない。だが、それが柚月にとってはツボなのだ。

「・・・気に入らなかったですか?」

おたまを持った岬に困惑気味に聞かれ、柚月は我に返る。気に入らないどころではない。他の男子がやっていたら『これはわざとか?』と思えるが、岬がやると何故だか似合って見える。
これはほれた欲目か・・・苦笑する柚月。エプロンからすらりと伸びる腕に触れてみたくなる。

「・・・誰の入れ知恵だ?」

悶々としながら柚月は問いかける。これは誰かがそう仕向けたに違いない。不思議とそんな確信が柚月にはあった。
考えてみたら、岬がわざわざ色目を使う必要はないのだ。柚月の心も身体も岬のものなのだから。
それを知っていてわざとそんなことをする男ではないことを、柚月は知っている。岬は人の気持ちを全身で受け止めようとする、誠実な子なのだ。

(もしや・・・)

一人の男性のことが頭に浮かぶ。柚月の好みを知り尽くしている彼の兄、薫。なぜか彼も岬のことは気に入っていて、保健室にいるくせに『無償の愛』が嫌いな薫にしては珍しく、岬には懐いている。
岬がジーンズをはいていることも、フリルつきではないことも、彼が一枚絡んでいるのなら、納得がいく。

「ふーん・・・」

つまりは自分の知らない間に二人は接触していたというわけだ。やきもちを隠さない柚月。自分は努力しないと側においてもらえないのに・・・岬はそんな彼の苦悩を知らないようだ。

「まさか先輩、俺が薫さんと・・・」

「別に、俺はお前が何処でどうしてるのか全て知ってるわけじゃないし」

別に薫の名前は出していないのだが・・・完璧に拗ねモードに入ってしまった柚月。
通常では「完璧な生徒会長様」である彼も、岬の前ではいろいろな顔を見せる。
それだけ岬のことが好きで好きで仕方がないのだ。やきもち焼くのも仕方ないことだろう。

「・・・先輩って人は・・・」

苦笑いしながら料理をする手を止め、岬が近づいてくる。おとなしく甘えようか、それとももう少し拗ねてみようか・・・あれこれ考えていた柚月だったが・・・。

「痛っ!何すんだ!」

「何ってあんた・・・勝手にくだらないことで焼餅やくから・・・」

「くだらないとは何だ。俺の知らないところで兄さんと会ってて・・・」

自分の焼餅を『くだらない』と言われ、おまけに軽く殴られたため、いくら岬にぞっこんである柚月でも、かなり機嫌が悪い。

「俺がどれだけ・・・」

「ったく・・・」

文句を言おうとした柚月よりも先に岬が抱きついてくる。

「お、おい・・・」

岬に後ろから抱きつかれ、柚月の怒気も、一気に失せる。柚月は岬に弱い。好きな人の腕の中にいて、怒れるはずがない。
身体を預ける岬の重みがあたたかくて・・・少し理不尽さは感じてはいるが。

「まぁ・・・確かにあの人にそそのかされはしましたけど」

『ほらな』即突っ込みを入れる柚月。そんな彼に岬は、少し頬を赤らめながら苦笑する。首筋にかかる吐息が心地いい。

「でも、先輩以外の前でこんな格好なんかしたいとも思わないですよ、俺。大体、これ裸エプロンじゃないですか。女の子ならまだしも、俺、男ですよ?いったい何が楽しいんですか、柚月先輩」

『見ているのが楽しいんだ』それは言わないでおいた。そんなことを言ったら岬にナニを言われるか分からない。だが、自分がしたくないような格好を柚月の前でしているということは・・・?

「まさか、誘っていたとか」

思わず柚月の口元もほころぶ。

「ったく、やっと気づいたんですか」

抱きつく力が強くなる。少し痛くはあるが、照れ隠しのような感じもして、ほんのりと幸せな気分になる。結局のところ、岬も自分のことを好いていてくれるのだ。

「あぁ、やっと気づいたよ、悪かった」

「いえ、気づいてくれればいいんです。それより・・・そろそろおせちも飽きたでしょう」

「まぁな」

「もう少しで出来上がるんで、ちょっと待っててください」

いくら寝正月とはいえ、一日中食べているとさすがに胸焼けする。岬も何か作っているようで、そろそろ別なものが食べたい。恋人の手料理は大変魅力的なのだが・・・。



「とりあえずは岬を食べたい」



「とりあえず・・・ってビールじゃないんだから」

文句は言いつつも、怒ってはいなかったようだ。

「まぁ、俺も賛成ですけど・・・冷めますよ?」

「お前が冷めたほうが困る」

もし岬のやる気が失せたら、柚月の欲望は何処に行ったらよいのだろうか?これは切実な問題だ。

「それなら・・・冷めないうちにいただいちゃってください」

「了解」

もともと岬も誘っていただけあってあっさりと柚月に身を任せる。焼餅を焼いていたはずの柚月も今はご機嫌だ。
めでたいのは年が明けたことよりも、柚月の頭の中だ・・・それを自覚していない柚月ではなかった。


end


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


秋山さまよりの年賀SS!!vv
毎年いただいてばかりでお返しもできていない不義理者ですが(///)、今回も図々しく!お言葉に甘え悦んで
お宝部屋へ奉納させていただきたましたvv(≧∀≦)ヾえへへv
(このお話のお2人は秋山さまの書かれているオリジナル小説のキャラクターです)

岬くん、もうッ
さいっっこうでしたホントにもう!!!///o(≧∀≦)oジタジタ
この誘い方!誘っているのに媚びたところがなく、逆にそっけないようにもとれるところとか!
でも、ちゃんと相手を喜ばそうと頑張っちゃってるところとか!
もうもうまっこと可愛らしくも男の子らしい、BLの極み的な2人の関係・ヤリトリに毎度ながらに歓喜の雄叫びを
あげ悶え転がってしまったタカツキですvv笑
半裸エプロンも敬語も鈍な柚月くん(笑)も何もかもvツボへのピンポイント刺激でああっああっああああ〜!///昇天(* ̄□ ̄*)
です!!笑


秋山さま、今年も素晴らしいSSを本当にありがとうございましたvv

戻る >>