[ 1 ]    3         7 / おまけ


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・・・・・そんで、学校。
これは今期の俺の宿命なのか・・・・・?
・・・ありえん。

「わりィ、ボール当たった・・・?」

声をかけた相手が。

「・・・いや、・・大丈夫」

・・・・・もうイヤだ・・・・。(涙)
もうできるだけコイツとは関わりたくない・・・。

そう思ったのに。

「あぁ・・・ちょうどいいや、木場、三島、これ第一保健室に持ってって」
そこにたまたま居合わせたのが、第二保健室の保険医、石原。

向こうでバスケをやってるから、と言って逃げようとした俺に、後でもいいだろうと言われて、背中を押される。
「三島一人だったらやめとこうと思ったけど、木場がいてちょうど良かったな」
なんてほざきやがって。
「何で三島一人だったらダメなんだよ」
文句を言ってやろうと思ったのに、石原はにっこり笑ってこう言いやがった。
「ダメ。だって、三島は細いから重いもの持たせられないだろ」
・・・・・・・・あぁーー・・・・。確かに・・。
三島の腰は細くて、強く抱いたら折れそうだ。あの腰が昨日俺を・・・・。
・・・って、あぁ〜〜〜〜!! 俺はホモかよ! 変態かよ!!!
頭の中でもんどり打つ俺を見て、三島は相当不思議そうだった。
・・・まぁ、そりゃそうか。
知らないところで他人の夢に出てきて出張サービスしてるだなんて・・・知られてたら俺の命のほうが危ない。

「じゃあ・・頼むな」
俺は、そう言った石原にちょっと待てと言うつもりだったが、ふと見た三島の顔が微妙な顔をしているのに気がついた。
・・・そういえば俺は、三島のこんな顔ばかりみている気がする。夢以外。

・・・あぁそっか。断りたいけど断れないのかな。頼まれたら嫌って言えないタイプみたいだしなあ、三島って。
そんでもって相手が俺だろ? ・・そりゃそうだな。
俺は、クラスの中でも目つきが悪いランキングNo1だ。
・・・そこは・・、うん。俺の中でもちょっとネックになってんだ。しかもほっときゃいいのに、文化祭の壁新聞でランク付けされちまうし。(ネタにされたともいう)
・・・・・おかげで今日まで彼女なしなんだよ、俺は・・・・・・!!!(涙)

・・・また変な顔されちまった。いや、今回は呆れられてるって言った方が正しいか。

「・・んじゃ、行こっか」
そう言った俺に、少し、三島がうなずく。
・・・・・よりにもよって、第一保健室。かなりここから遠い。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・やばい、本気で間がもたねぇ・・・・。
なんか喋れ、三島・・!!

俺が念を込めて見ていると、三島はうつむいてしまった。
やべぇ・・・ビビらせたか・・・・?
一応、気をつけるように努力はしてるつもりだ。・・たぶん。
けど、やっぱ・・話しかけるべきか・・・?

「・・あ、えっと」
「・・っその」
口を開きかけた俺と三島のセリフが重なった。
どうやら三島も様子を見ていたらしい。

「・・・えーっと・・」
「・・・木場から・・・・・その・・・どうぞ」
・・・・って言われてもなあ・・・。

「・・・あー・・たいしたことじゃねぇんだけど、何で三島、さっき保健室の裏なんかにいたんだ?」
・・・へ、変なこと、言ってないよなぁ・・・・俺。
                                                                              
「・・・・・・・ちょっと、一人で風に当たりたくて・・・・保健室の裏だったら庇があるし、グランドからも離れてて・・・静かだから・・」
・・・なるほど。
「・・・・木場は・・・?」
「・・俺は・・・バスケやってて。そこの・・グランドの右の方でさ」
内心ビビりつつ、俺は答えた。
「・・あぁぁ、そういえばさっきそう言ってたな・・!・・・ごめん!」
「・・・いや、」
・・・・・困ったことに、さっきから三島と視線を合わせられない。
端から見れば相当変な会話だったと思うが、俺はなんとか普通のコミュニケーションをしようと少ない脳みそをかき回す勢いで頑張っていたため、そんなことに気を使うヒマはなかった。

・・・・・・理由はもちろん、夢での三島との擬似デートにある。
・・・デートかも怪しいけど・・。その後、Hになだれこんじまったしなぁ。
・・・・やば。だから思い出さないって思ったのに・・・!!
・・・・体、やべぇ・・・・。
あーもー・・早く萎えろ!!! 第一、三島は男だろ・・・・!?

「・・・・・大丈夫・・・? ・・・半分持とうか・・・??」
どうやら顔に出てしまったようだ。って、やばいやばいやばいやばい・・・・!!
俺はすぐさま否定した・・・が、またうつむかれてしまった・・。
「・・あー・・とホント、平気だから」
そう言った俺の頭は、おそらく、妄想と、自制心に満ちていた。

それからの俺は、何を話していたのかよく分からない。
・・・・ふとした瞬間に、理性がおかしくなってしまいそうだったから。


・・・・・今日は、カレンダーの童話の絵でも枕にしいて寝てみよう。
今日こそは、穏やかな夢を見られますように。
俺は、藁にもすがる思いで瞼をとじた。


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予定とは違った、ここの家の窓をくぐる気になったのは、トロステンがあんなことを言い出したからだ。

『今日も行ってみようよ。・・・じゃないと、じーさまにコーリンが人間の男に惚れてるってバラしちゃうよ〜。』

気心知れた奴とは、これだからやりづらい。
・・・・気心だけじゃなく、恋心も知られてるんだから・・・。

『何をぶつくさ言ってんのさ、コーリン。来られて嬉しいだろ?』
頭の中で思いつく限りの悪口を並べたてていた俺に、トロステンが言った。
「・・・・・冗談」
・・・・・余計に思い知らされただけだ。
『なんでだよ。嬉しくないの??』
「・・・・・・当たり前だろ。仕事が増えるだけだ」
『・・・つれないなぁ・・好きなんじゃないの・・・・?』

・・・・・・・・木場なんか、大嫌いだ。


学校の廊下で、たわいのない話をした。

“・・・あー・・そんで光架が・・・あ・・っ妹な。あっそういえば、三島って兄弟とかいんの?”

三島、と呼んでくれた低い声も。何気なく向けた視線も、どうしようもなく熱くって。
・・・・それが、俺のものではないことを知ってるくせに。



・・・・・・・触れて欲しいと、思ってしまった。

木場に近づいたら、すべてが奪われる。
危険だから・・・・早く離れなくちゃ。
・・・そんなふうに思うくらい。

「・・・・・大嫌いだよ」

そう、俺は喉の奥から声を絞り出した。
そしてすぐに、トロステンの返答を遮って、夢を開きだす。

光は冷たく俺を包んだ。・・・・これまで、そう感じたことなんて一度もなかったのに。


・・・・今夜の夢の舞台は、どこかの国の城の中だった。
一人の王子がいて、それが木場。あとは、二人の姫がいる。

・・・・・良かった。
今日は、嫌な夢を見なくてすむ。・・・俺はきっと招かれざる客だったから。
・・・・・これで、木場も安心して眠ることができるだろう。

・・・・・・あとは、昨日の夢を喰うだけだ。それに関わる記憶も、すべて。
幸せを与えることが、俺の・・・夢魔の、義務だから。

「・・・・・なぁ、どこにいるんだ・・・・?」
俺の前で、一人、木場が頭を抱えている。
「・・・・・・・・こんなのは、違うのに・・・・」
・・・・・違う・・?
「・・・あいつらじゃ、足りない・・・・お前でなきゃ、駄目なのに・・・・・」

・・・・・・あぁ良かった。

・・本当に、良かった・・・。

ちゃんと、木場にはすきな人がいて。
・・・・・よかった。



だけど。

・・・・・・・・・木場のバカ・・。
じゃあ、どうしてあんな夢見たんだよ。
・・・・俺は、きっと、ずっと忘れられない。

・・・・体に染みついて、離れないよ。



辺りの音が静まりかえり、俺が再び木場の部屋に帰ってきたとき、トロステンが口元に笑みを浮かべて聞いた。
『・・今日の夢はどうだったの?』
どうも覗き込んでこないと思ったら、どうやら俺から聞きたかったらしい。
「変な夢だった。なんか木場が王子様とかになってて」
俺は、苦笑しながらそう言った。
何もお前の期待してたような内容じゃないぞ。
・・・そう言って、がっかりさせるつもりで。

トロステンの手(前足?)が、俺の頬を拭うまでは。
『・・・・コーリン。』
少しキツい調子で、トロステンが俺を見る。
・・・・頬を流れるのが涙だったなんて。
・・・・・・・気づきもしなかった。

『・・・ねぇ、本気ですきなら・・・そう言ってもいいんじゃない?』
俺の頭を撫でながら、やさしく相手が問いかける。
『・・・・コーリンは気張りすぎだよ。』
・・・・・・・・そんなこと言われたって、どうしようもないのに。
『・・・嫌な夢、見たのなら・・ボクが食べてあげるから』
・・・・・バカだなぁ。
夢魔は眠ったりしないの、知ってるだろう・・・・・・?
『夢見てたら、全くの脈無しってわけでもなさそうだしさ。頑張ってみたらどう・・・』

「・・・男とか! 片思いだとか!! そういうのの前に俺は夢魔なんだよ!!!」

・・・・・ごめん、トロステン。折角なぐさめてくれてたのにどなったりして。
・・・・・だけどさ、
「・・生きる所が違うんだよ・・・・・・・・」
俺なんか相手にして、木場が幸せになれるわけがない。
・・・だから・・・・、あともう一日だけ。

俺に、甘い夢を見せて。


「・・・っんん・・・」
そのとき突然、木場が軽いうめき声を洩らした。
どうやら、さっきの俺の大声に反応して、少し体を後ろにひっくり返したようだ。
俺とトロステンは、すぐさまカーテンの後ろに隠れた。

・・・良かった。目は覚ましていないらしい。
しばらく息を潜めた後、陰から出てきたトロステンに、俺は謝った。

『・・・・・』
「・・・・ごめん、トロステン」
『・・・ううん、そんな』
・・・・・・それから、もう一つ。
「・・本当に申し訳ないんだけど、」
『・・・・うん?』
「・・・・・お願いがある。」



これが終わったら、


・・・・・・・・・もう君には会えません。



たった一回の夢だけで浮かれてしまって、俺は本当に馬鹿な奴だけど。

・・・・・・・・もうそれも、すぐに消えるから。


今、胸の中で記憶を反芻させることだけは、・・・どうか、許させて。




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