[ 1 ] [ 2 ] [ 3 ] [ 4 ] [ 5 ] [ 6 ] [ 7 / おまけ ] ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 「・・・・・・・」 なんか、・・・・痛い。 夢の中の俺が悩んでて、せつなくてせつなくて・・・なんか、胸が締め付けられるような夢だった。 ・・・・夢で体に支障をきたすって、どんな夢だよ・・・・・。 ふらついた足取りで一階へと降りていくと、そこには妹、光架の姿があった。 ・・・・今日もまぁ、余裕ですコト。 「あー・・お兄ちゃん。おはよー」 マグカップ片手に、優雅にココアなんか飲んでやがる。 ・・・・俺は連日、遅刻寸前だというのに。 「・・・・・ん」 と、俺はうなずきを返す。俺ん家の挨拶なんて、まぁこんなもんだ。 「・・・・いっつも遅いけどさぁ、最近さらに起きるの遅いよねぇ・・・。なんかあったの?」 「・・・・いや、ちょっと考え事・・」 「えー、うそーっ、考え事する脳なんてお兄ちゃんにあったのーーー!!?」 適当に返した俺に、容赦なく光架がツッコミをいれる。 ・・・・・このヤロウ。朝から殴り飛ばされてぇのか・・・!!?? そう思い、拳を固めた俺に、さすがに殺気を感じたのか、光架はあわててフォローに走った。 「・・・あぁ・・っほらぁ・・・・・お兄ちゃんが考え事なんてめずらしいなーー・・・って」 ・・・ちっ。逃げやがったか。 そうは思ったが、他に愚痴を洩らす相手もいないので黙って話を続ける。 「・・・最近夢見が悪くてな・・・・」 「へー・・・どんな夢?」 ・・・・・どんなって・・・・。 「夢診断してあげよっか」 「ゆめしんだん〜〜・・・?」 ・・・そりゃまた、胡散臭げな。 「馬鹿にしないでよね。結構当たるんだから」 ・・・はいはい。けど、だいたいなぁ。 「そんな簡単にベラベラ話せるかよ」 そう言った俺に、すかさず光架は言う。 「別に全部を話さなくてもいーの。出てきたキーワードだけでいいんだ。“屋上”とか、“空を飛ぶ”とかね」 ・・・ほーう。そりゃぁなかなか便利だな。 「・・・・キーワード・・ねぇ。・・・今日のには城が出てきたな」 「・・・・“城”・・・・えぇーと・・・」 そう言って光架は、自分のカバンから厚ぼったい本を取りだして、ペラペラめくりだした。 ・・・・いつの間に買ったんだ、そんな本。 「“城”・・・あれー・・?どこだろ、見あたんない」 「・・・ほら見ろ。やっぱりそんな本・・」 「・・あー・・っ・・・・でも!確か“城”は“独占欲の表れ”だったような気が・・・。 お兄ちゃん、誰か独占したい人でもいるの??」 少し焦ったように、そう答えられた。 ・・・・・・独占・・? ・・・・・俺が。 あいつを。 ・・・・・・。 「どしたの?お兄ちゃん」 不思議そうに、光架が聞いた。 「・・・・・いや、」 ・・・・・・・ひとつ、試してみたいことがある。 *** 「・・・・だから、本当にいいんだって」 昨日だって、そう言っただろ。 ・・・・・・学校にまで忍び込んで。誰かに見られたらどうするんだ。 ・・まぁ、トロステンは、人間には見えないようにしてもらってるから平気なんだろうけど。 「・・それだけ?」 『う・・・』 「・・・だったら、俺、行くな。手続きとかやらないと」 黙り込んだトロステンにそう言って、俺は立ち上がった。 ・・・・そんなに俺って頼りなく見えるかな。 少しため息をつきながら、俺は職員室に戻った。 扉を開けて中を覗くと、先生達が口々に話しかけてきた。 「・・三島!何でお前突然転校なんか・・・!!」 「ご両親の都合と言っても、時期が中途半端ねぇ・・・どうせなら、学期末までいられたら良かったのに」 「向こうに行っても体に気をつけなさいね」 ・・・父親の転勤。そう説明はつけてある。 「もう保健室にも来ないのか・・・淋しくなるな」 そう言ったのは、保険医の石原先生だ。 時々後ろの階段に腰掛けて休んでいたら、保健室に入れて紅茶をいれてくれたっけ。普段は容赦のない口調で話すのに、そういうところは妙に女性っぽいな、と変な所に感心した。 優しい人達。 暖かい場所。 ・・・・・・・ぜんぶ、偽物なのに。 それでも俺は、笑って嘘をつく。 「・・・・はい、頑張ります」 こういうときに友達がいないのは、後腐れがなくて少し気が楽だ。 教室に入っても、特に話しかけてくる人もいない。 全く話をする人がいないわけではないけれど、必要最低限の会話しか続かない。 ・・あ。 今、目が合ったのは、少し前に告白してくれた斉藤さんだ。 ・・・すぐに視線は噛み合わなくなったけど。 俺は、あなたの気持ちには応えられないから。 ・・・・・ごめんね。 全部嘘だから。 本当は“三島竜幸”なんていなくて、ちっぽけな、俺がいるだけ。 傷を付けるのが嫌だから、不幸にするのが怖いから、綺麗な嘘で君をだます。 俺が一人いなくなったところで、この世界は変わらない。 だから。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 戻る << BACK NEXT >> |