[ 1 ]            7 / おまけ


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「・・・・・・・」
なんか、・・・・痛い。

夢の中の俺が悩んでて、せつなくてせつなくて・・・なんか、胸が締め付けられるような夢だった。
・・・・夢で体に支障をきたすって、どんな夢だよ・・・・・。

ふらついた足取りで一階へと降りていくと、そこには妹、光架の姿があった。
・・・・今日もまぁ、余裕ですコト。

「あー・・お兄ちゃん。おはよー」
マグカップ片手に、優雅にココアなんか飲んでやがる。
・・・・俺は連日、遅刻寸前だというのに。
「・・・・・ん」
と、俺はうなずきを返す。俺ん家の挨拶なんて、まぁこんなもんだ。
「・・・・いっつも遅いけどさぁ、最近さらに起きるの遅いよねぇ・・・。なんかあったの?」
「・・・・いや、ちょっと考え事・・」
「えー、うそーっ、考え事する脳なんてお兄ちゃんにあったのーーー!!?」
適当に返した俺に、容赦なく光架がツッコミをいれる。
・・・・・このヤロウ。朝から殴り飛ばされてぇのか・・・!!??

そう思い、拳を固めた俺に、さすがに殺気を感じたのか、光架はあわててフォローに走った。
「・・・あぁ・・っほらぁ・・・・・お兄ちゃんが考え事なんてめずらしいなーー・・・って」
・・・ちっ。逃げやがったか。
そうは思ったが、他に愚痴を洩らす相手もいないので黙って話を続ける。
「・・・最近夢見が悪くてな・・・・」
「へー・・・どんな夢?」
・・・・・どんなって・・・・。
「夢診断してあげよっか」
「ゆめしんだん〜〜・・・?」
・・・そりゃまた、胡散臭げな。
「馬鹿にしないでよね。結構当たるんだから」
・・・はいはい。けど、だいたいなぁ。
「そんな簡単にベラベラ話せるかよ」
そう言った俺に、すかさず光架は言う。
「別に全部を話さなくてもいーの。出てきたキーワードだけでいいんだ。“屋上”とか、“空を飛ぶ”とかね」
・・・ほーう。そりゃぁなかなか便利だな。
「・・・・キーワード・・ねぇ。・・・今日のには城が出てきたな」
「・・・・“城”・・・・えぇーと・・・」
そう言って光架は、自分のカバンから厚ぼったい本を取りだして、ペラペラめくりだした。
・・・・いつの間に買ったんだ、そんな本。

「“城”・・・あれー・・?どこだろ、見あたんない」
「・・・ほら見ろ。やっぱりそんな本・・」
「・・あー・・っ・・・・でも!確か“城”は“独占欲の表れ”だったような気が・・・。
お兄ちゃん、誰か独占したい人でもいるの??」
少し焦ったように、そう答えられた。

・・・・・・独占・・?


・・・・・俺が。
あいつを。


・・・・・・。

「どしたの?お兄ちゃん」
不思議そうに、光架が聞いた。
「・・・・・いや、」


・・・・・・・ひとつ、試してみたいことがある。

***

「・・・・だから、本当にいいんだって」

昨日だって、そう言っただろ。
・・・・・・学校にまで忍び込んで。誰かに見られたらどうするんだ。
・・まぁ、トロステンは、人間には見えないようにしてもらってるから平気なんだろうけど。

「・・それだけ?」
『う・・・』
「・・・だったら、俺、行くな。手続きとかやらないと」
黙り込んだトロステンにそう言って、俺は立ち上がった。
・・・・そんなに俺って頼りなく見えるかな。
少しため息をつきながら、俺は職員室に戻った。

扉を開けて中を覗くと、先生達が口々に話しかけてきた。
「・・三島!何でお前突然転校なんか・・・!!」
「ご両親の都合と言っても、時期が中途半端ねぇ・・・どうせなら、学期末までいられたら良かったのに」
「向こうに行っても体に気をつけなさいね」
・・・父親の転勤。そう説明はつけてある。
「もう保健室にも来ないのか・・・淋しくなるな」
そう言ったのは、保険医の石原先生だ。
時々後ろの階段に腰掛けて休んでいたら、保健室に入れて紅茶をいれてくれたっけ。普段は容赦のない口調で話すのに、そういうところは妙に女性っぽいな、と変な所に感心した。

優しい人達。

暖かい場所。


・・・・・・・ぜんぶ、偽物なのに。

それでも俺は、笑って嘘をつく。
「・・・・はい、頑張ります」


こういうときに友達がいないのは、後腐れがなくて少し気が楽だ。
教室に入っても、特に話しかけてくる人もいない。
全く話をする人がいないわけではないけれど、必要最低限の会話しか続かない。
・・あ。
今、目が合ったのは、少し前に告白してくれた斉藤さんだ。
・・・すぐに視線は噛み合わなくなったけど。

俺は、あなたの気持ちには応えられないから。


・・・・・ごめんね。


全部嘘だから。
本当は“三島竜幸”なんていなくて、ちっぽけな、俺がいるだけ。

傷を付けるのが嫌だから、不幸にするのが怖いから、綺麗な嘘で君をだます。


       俺が一人いなくなったところで、この世界は変わらない。

  だから。




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